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近年『やる気にならないのでうつ病ではないか?』『人間関係がうまくいかないのは発達障害のせいではないか?』と受診をされる方がずいぶんと増えました。診察をして実際にうつ病や発達障害の方もいらっしゃいますし、そうでない方もいらっしゃいます。これまでに注意欠如・多動性障害や社会不安障害の鑑別診断、治療を希望される方が増加した時期もありました。最近の心療内科・精神科のブームは双極性障害(躁うつ病)です。2012年は双極性障害の診断を受ける方が増えるのでしょう。こうした心療内科ブームはどうして起こるのでしょうか?
心療内科ブームを引き起こしている誘因は4つあります。1つ目は製薬会社、2つ目は心療内科・精神科医、3つ目はマスメディア、4つ目は患者さん自身です。
製薬会社の脱毛症、過活動膀胱、逆流性食道炎、ニキビ、認知症などのCMで『お医者さんに相談だ』というビジネスモデルを目にしたことはあるのではないでしょうか?製薬会社は医薬品の潜在的な需要が病気かどうか紙一重のところにあるのを熟知しています。『うつ病は心の風邪』というのは製薬会社のSSRIのキャッチコピーでした。その結果、抗うつ薬市場は145億円(1998年)から870億円(2006年)に膨れあがりました。SSRIそのものは良い薬剤ですしうつ病の認知も進みましたが、専門医以外に売り込んだことで安易な診断と処方が増え、逆にうつ病の誤解を生む状態になってしまいました。
心療内科・精神科医も製薬会社との関係性について反省するべきでしょう。パンフレットをもらい説明会を受け情報を真に受けて安易な処方をする馴れ合いの関係ではなく、自ら論文を読み患者さん本位の緊張感のある協力関係が理想的でしょう。2011年1月の精神科雑誌でも製薬会社主導の臨床報告が散見されることが指摘され、精神科医により一層の社会的責任を求めています。原子力研究と電力会社との関係と同様に、大学病院と製薬会社の関係の透明性もアメリカなどに比べ遅れており、2011年にようやく日本医学会や日本製薬工業協会が医師への研究資金や寄付金などを公開する指針を公表しました。
マスメディアの精神疾患の取り扱いにも問題があります。テレビ番組や本などでうつ病やパニック障害の病名が横行していますが、番組責任者や執筆者は実際の患者さんの苦悩を理解しているのでしょうか?軽々しく取り扱うことで理解されるよりも誤解されることの方が多いことを知ってもらいたいです。先日NHK放送でTMSや光トポグラフィ、認知行動療法などの紹介がありました。薬物療法偏重の心療内科・精神科医療への警鐘であることは理解できますが、実用的ではない方法を紹介するよりも何故心療内科・精神科医療の多くがが5分診療や多剤処方になるのかを掘り下げるべきではないでしょうか?
患者さんには全く責任はありませんが、大量の情報に惑わされない目を持つことが求められます。新しい薬や聞いたことのない病気のことを知ると『今受けている治療は効果があるのだろうか?』『自分の診断は正しいのだろうか?』と不安が生じて効果的な治療や治療者との関係を見失うことがあります。疑問に思ったときに治療者と話し合い不安を解消することがブームに踊らされない方法の一つと考えます。
製薬会社、医者、マスメディア、患者さんの4つの誘因に共通していることはDSMなどの『○○の症状が○個以上あると○○病』といった診断基準の乱用でしょう。
心療内科・精神科の診断は血液検査や画像検査などの客観的根拠が少ないため診断面接を重ねる必要がありますが、DSMの方法は診断面接と比べて精度が低いといえます。
ブームとは流行です。流行は過ぎ去っていきます。精神疾患は年単位の長い経過をたどるものがほとんどであって流行ではありません。精神疾患で悩んでいる方の誤解が少しでも減ればと切に願います。
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